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幽霊なのか呪いなのか、はたまた全く別の”なにか”なのか。とにかく恐怖の正体が掴めない、まさにシャマラン監督らしい作品。
ストーリー中にちりばめられる伏線を見破って、終盤のオチを先読みできる人はどこぞやの名探偵くらいかも知れません。
休暇を過ごすため田舎にある母方の祖父母の家を訪れた姉弟は、優しく穏やかな二人に歓迎されるが三つの奇妙な約束を伝えられる。
楽しい時間を過ごす、好きなものは遠慮なく食べる、そして夜9時半以降は部屋から出てはいけないという内容だった。
しかし、夜に変な気配を察知し起きてしまった姉弟は恐怖のあまり約束を破ってドアを開けてしまい……。
祖父母の家に潜む恐ろしい”ナニカ”、鏡を見ることが出来ない姉と異常なまでに潔癖症の弟。
姉弟が抱える心の傷とその葛藤はホラー映画であることを忘れるほど繊細に描かれ、二人が抱える問題はそのまま恐怖のエンディングへと繋がって行きます。
恐怖の正体と向き合うことを通してそれぞれの心の傷と向き合っていく粋な演出と、そのシナリオこそがシャマラン監督作品に一貫してある魅力。
「ヴィレッジ」「サイン」などに代表されるサスペンスホラーの中に人間愛を描き出す、ただ怖いだけではない他の監督には真似出来ないシャマラン節は健在です。
低予算ながら興行収入は大成功を収めた今作、お金は掛けずともアイデアとカメラワークの工夫だけで真に迫る恐ろしいシーンが撮れてしまうのがシャマラン監督。
作中は全編通してP.O.Vと呼ばれるカメラの視線と登場人物の視線を一致させるようなカメラワークですが、ほとんど手ぶれはしていません。
特にその理由はストーリー中触れられていませんが最新のビデオカメラの手ぶれ補正の機能を使って撮影しているという体裁でいいでしょう。
欠点である激しい手ぶれがないので画面酔いすることがなくノンストレスで見ることができ、長所である”臨場感”だけを上手く残した演出が効いています。
床下のかくれんぼや白い布きれを被った”なにか”の迫りくるシーンの臨場感は誰もが戦慄するでしょう。
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3Dや4Dの映画が主流になりつつある最近の映画業界で「ヴィジット」は恐怖を演出する音楽の煽りやCGを使った映像でのギミックなど一切使われていません。
カメラを通した映像だけの“恐怖”はCGなどの特殊効果に慣れ過ぎてしまった現代人には逆に新鮮でリアリティーがあります。
ストーリー終盤の姉弟の母親が魅せるオチのシーンの迫真の演技は鳥肌もの、そこに無音の時が流れることで恐怖は倍増します。
普通のホラー映画であれば一番の見せ場であるオチのシーンには音響やCGを使った激しい演出がされますがシャマラン監督はまるで反対の演出をしない演出で観る人を釘付けにします。
CGが出始めた頃の映画に驚かされたように、全く特殊効果を使わない映像に驚かされるところを狙ってくるところはさすがシャマラン。
ハリウッド映画の制作予算は大作になると1億ドル(約110億円)なんてざらにある中で、ヴィジットの製作費は500万ドル(約6億円)と超低予算。
ちなみに、シャマラン監督の過去作品の製作費は以下のとおり。
アンブレイカブル(7500万ドル)
サイン(7200万ドル)
ヴィレッジ(6000万ドル)
レディ・イン・ザ・ウォーター(7000万ドル)
ハプニング(4800万ドル)
エアベンダー(1億5000万ドル)
アフター・アース(1億3000万ドル)
シャマラン監督作品の中でもダントツで低予算の映画です。
低予算で製作した理由は制作にスポンサーから口を出されたくなかったから。過去の作品ではプロデューサーやスポンサーが製作や編集に口を挟み、思うようなシーンを撮れずカットされたり変更を余儀なくされるといったことがあったからです。
今作でシャマラン監督は製作費500万ドルを全額自身のポケットマネーで出資することで、スポンサーの意向に左右されることなく自身の思う作品作りが出来たようです。
「ハプニング」「エアベンダー」と批評家に酷評される作品が続いていしまい、映画ファンのシャマラン離れが進んでしまって数年。
「シックスセンス」で映画界を席巻したシャマラン監督らしい原点ホラーが公開され、シャマラン節は復活を遂げました。
彼の魅力である映画終盤のオチ、たくさんの伏線、恐怖の演出、どれをとってもシャマラン復活と呼ばれる作品です。