ジブリ史上最悪の赤字興行となってしまった作品ですが、そのクオリティーはもはや芸術。
とんでもない作り込み、そりゃ赤字になるわ!と言いたくなる描写の力の入れよう。採算度返しのジブリの本気が詰まった大傑作。
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企画から作品の完成まで8年の歳月と50億円を超える製作費を投じた日本アニメ史上滅多にない超大作。
興行収入は約25億円と十分にヒットした作品ですが、あまりに製作費をかけ過ぎた為に利益が出たとは言えません。
しかし、アカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされるなど、高く評価する声は多く劇場公開後しばらく経ってから観客数が増えた珍しい作品。
エンターテインメント性よりもじっくりと見て楽しむ大人向きの嗜好が強い作品で、大人版”君の名は”とも言える純愛ストーリーと美しい映像美。
今は昔、竹取の翁が見つけた光り輝く竹の中からかわいらしい女の子が現れ、翁は媼と共に大切に育てることに。
女の子は瞬く間に美しい娘に成長しかぐや姫と名付けられ、うわさを聞き付けた男たちが求婚してくるようになる。
彼らに無理難題を突き付け次々と振ったかぐや姫は、やがて月を見ては物思いにふけるようになり……。
独特なタッチのアニメーション技術で描かれた今作はジブリ作品、”ホーホケキョとなりの山田くん”で用いられたアニメーターの描いた線を生かした手書き風のスタイル。
さらに、背景を動画に近いタッチで描くことで両方に一体感を出し一枚絵が動くような画を全編に用いた手法で描かれています。
始めのうちは違和感を感じ見づらい印象も受けますが、慣れてくるとそのタッチで描かれる画の世界観にどんどん惹きこまれていきます。
これほどまでに手間を掛けた絵のタッチだからこそ伝わるキャラクターの葛藤や苦悶が日本人なら誰しもが知っている竹取物語のエピソードを昔話からまるで、今現在起きているドラマへと昇華していく為の重要な役割を担っているのです。
ストーリーが終盤に差し掛かるにつれて、なぜわざわざこんなに労力の掛かる技法を用いて制作したのかが良く分かってきます。
かぐや姫の物語の翁役が遺作となった地井武男さん、体調が崩れた後に収録のやり直しが入った6シーンは代役として俳優の三宅裕司さんが翁の声を吹き替えています。
翁の声に集中してよく聞いてみると声が違うシーンが実はあるようです。
企画の段階から竹取物語ではなく他の題材で映画を作るべきではないか、製作中は宮崎駿監督の引退作”風立ちぬ”との同時公開が決定されるも延期になるなど、様々な障壁があり制作は難航。
途中、1カ月間制作が中断されるなど制作続行が出来なくなる事態にまでなりかけたほどの今作の完成を強く後押ししたのは、日本テレビ会長の氏家齊一郎氏(享年84歳)
高畑勲監督の大ファンであり、特にホーホケキョとなりの山田くんを大絶賛。
「高畑さんの新作を見たい。大きな赤字を生んでも構わない。金はすべて俺が出す。俺の死に土産だ」という意向から”かぐや姫の物語”の企画はスタートした。
予算やスケジュールが厳しいと判断したプロデューサー鈴木敏夫は「氏家に製作をやってもらう」という条件をつけたほど。
残念ながら氏家齊一郎氏は作品の完成を見ることなく亡くなりましたが、ポスターやクレジットに「製作」として名が記されています。
高畑勲監督の大ファンであった氏家齊一郎氏は、ジブリの大ヒット作品”千と千尋の神隠し”を観た後、「俺には理解できない」と宮崎駿監督とプロデューサー鈴木敏夫氏に直接話したというエピソードがあります。